太郎と花子の出会い

終戦の年に生まれた女の子は、早くからお乳の代わりに、お粥を食べていたので、他の子よりも元気に育ったのでございます。長女は冬に生まれたので冬子と、長男は秋に生まれたから秋男となずけられました。意図も簡単な名前のつけ方でございます。次女も又又冬に生まれたので、太郎は,大変困りました。それで苦肉の策として,冬二子と名ずけました。冬に又又生まれた子と言う意味でフジコと呼ばせたのでございます。三女は簡単でした。夏に生まれたので夏子です。残念ながらこの家には春に生まれた子がいないのです。この子達の母親は,隣りの村の村長の娘でした。普通ならもっと良い所から縁談があっても良いのですが、村瀬花子は何しろそれはそれは皆がびっくりするほどのおデブさんだったのです。着物の帯が締められなかったそうでございます。昔のお相撲さんの小錦を想像して貰えば,理解し易いと思います。そして花子には,人に喋れない秘密があったのでございます。それは幼少の頃腸チフスにかかり,治っても,お尻に大きな床ずれの痕が残されているのです。若い娘には耐え難いほどの苦痛でございました。ある時,太郎との縁談が持ち上がったのでございます。太郎の家は、父の九太郎が、朝の早くから起きて、夜遅くまで働き、無駄をしないでコツコツとお金を貯め、少しずつ畑を増やしたり、田んぼを増やしました。そして山まで買えるようになりました。太郎の家の財産は九太郎が一代でつくりあげたものでございます。太郎は大変勉強が好きでした。ある時、大学に行きたいと父に頼みましたが、九太郎
は,百姓に学問はいらないと言って断わりました。太郎は京都に行き、苦学をして旧制中学をでました。そして大学まで行く前に身体を壊してしまいました。国敗れて山河あり、夢敗れて山河あり。仕方なく田舎に引っ込みました。その時に縁談が起こったのです。太郎はスタイルが良く,顔もナカナカハンサムに取れた写真を仲人さんに渡しました。その写真を見た花子は振られると思い,自分の写真は渡せませんでした。とうとう縁談が進み、結婚式当日まで,太郎は、花子の顔を見ることはありませんでした。