僕は何者?

 太郎と花子にしてみれば、自分の子供が、遠いところに養子に出すより、自分の家の近くで育つ方が、いつまでも成長を見ていられると考えたのでございます。段々大きくなり、物心がつく頃には「小父さん、小母さん」と呼んで遊びに来ます。本人は養子であることは全く知りません。利発な子で、向かいの奥方を、本当の親と思い、自然に愛情深く育ちました。一人っ子として十年の歳月が流れました。ところが十年後に、その家に実子が生まれたのです。養子の名前はΓ学」実子はΓ保」。昔から貰子すれば、そこの家に子供が出来ると言われてきましたが、この家も御多分洩れず、可愛いいわが子が出来たのです。今更養子を実家に返すわけにはいかず、そのまま兄として育ちました。学は、小学生や中学生の時は,神童と言われるくらい勉強が出来ましたが、思春期になると、近所の心無い人から「お前はもらい子だよ」と言われ、とてもショツクを受けていました。自分の親だと信じていた人が、親でなくなるのですから、聞いた時の衝撃は

言葉に表せません。「自分は何故貰われたのだろうか?」と一人で誰も相談できずに悶々として、ふてくされていました。養母にも、実の親にも話せず、一人で悩み続けていました。