冬子の縁談

 お向かいの奥方が、見慣れないお客が頻繁に夏子の家に入るのを見て、気になりました。ある日夏子に尋ねました。「よくお客さんが見えるけれど、何かあったの?」「お姉ちゃんをお嫁にほしい人が来たんだよ」「そう?縁談なの?どんな人?」「どこかの先生らしいよ」このように、夏子は聞かれたことをぺらぺら喋るスピーカ―なのです。親がひた隠しにしてることを、平気で他人に漏らしてしまいます。冬子も就職すれば、あちらこちらから縁談があっても不思議はありません。農家の娘は、農家に嫁ぐのは自然なのですが、都会に就職すれば、娘としては、朝早く起きて、夜遅くまで働く、そんな農家の嫁には、二の足を踏みます。農家の娘は、町に嫁ぐことを望み、農家の嫁不足がこのころから叫ばれるようになりました。また田舎では、男友達、女友達と仲良くしていると、心ない人が噂をして、縁談が来なくなるので、娘時代はとても噂を立てられないように身持ちをきれいにします。自由の無い時代でした。

 顔の広い人が、仲人さんに成り、双方の家を行き来して話を進めます。自分で見つけられる人は、とても、幸運です。まだまだ、男女平等には程遠い時代でありました。