ミドリの選択

 秋男にとって、卒業しても、ミドリとは別れたくない、就職して、ミドリと交際を続けたい。正直な彼の気持ちでした。しかしミドリにとっては、友達のお兄さんでしかないのです。結婚の相手ではありません。彼女にとってただ通り過ぎていくだけどの男でしかありません。結婚となると、それは条件の良い人と結婚したい。秋男みたいに小姑が沢山いるところで、また祖父、父母がいて、農家の家に好き好んで、嫁に行きたくありません。学生時代なら、関係なく楽しんで思いで作りで良いのです。結婚の相手は、別に見つけていたのです。秋男にとって、そんな女心は知る由もありません。男の純情をミドリに捧げていました。そして大学を卒業しても、今のコロナ時代みたいに、その当時は不況で就職もままなりません。おまけにコネなどありません。ダブルパンチです。彼女には見切りつけられ、就職もできない辛い我慢の生活でした。卒業して半年ほど経たころ、近所の知人が声をかけてくれました。今は。臨時採用だけれど、そのうち空が出来れば本採用になれるからと、採用試験は合格しているのに、そんな大変な時代でした。他の人より半年遅れの出発でした。おまけにその年父の太郎の停年を迎えました。秋男22歳、冬二子20歳、学17歳、夏子14歳、まだまだお金のかかる子供たちがいて、太郎も花子も、それはそれは貧乏な生活ですが,病身の太郎以外は、元気でした。そして学は高校生なので、冬子の家に下宿していました。冬子の家は、学の養母の姉の家でした。そんな苦しい家にミドリは見切りつけて賢い子でした。秋男にとり、一番苦しい時代でした。